2014年9月25日

エコハウス・セミナー 2014 in 東京 が開催されました

2014年6月28日14:00〜17:00 建築家会館大ホール
主催:JIA環境会議 後援:日本建築学会 日本建築士会連合会(CPD認定プログラム)

生憎の雨の中、全国から40名近くの方々が参加して、4時間以上にわたって熱心な議論が繰り広げられました。セミナーの進行にそって報告をいたします。(敬称略)

挨拶

森暢郎(日本建築家協会 副会長)

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日本建築家協会は環境について積極的な活動を続けています。環境省のエコハウス・モデル事業では、JIA環境行動ラボが中心となって全国の支部の会員が参加し、また多くの会員が各自治体によるプロポーザルコンペを勝ち取って設計にもあたりました。
完成後の性能検証では、環境省、建築研究所、東京大学大学院のご支援とご協力の下、本日のセミナーで紹介される素晴らしい成果を上げることができましたことに、深く感謝いたします。
このセミナーは日本建築家協会の組織変更で、JIA環境行動ラボから発展したJIA環境会議による最初の企画となります。皆さまには今後ともご指導くださいますよう、心からお願い申しあげます。


井戸井毅(環境省地球環境局地球温暖化対策課 課長補佐)

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日本における温室効果ガスの総排出量は、2009年から毎年増え続けています。その内で家庭部門のco2排出量は2012年度には2億200万トンで前年度に比べて7.8%増加しました。ライフスタイルを含めたエコハウスの普及はますます重要になってきています。
環境省では、2009年度にエコハウス・モデル事業として全国20の自治体でエコハウスが建設され、2010年度と2011年度には性能検証調査をおこないました。この事業と性能検証調査の成果が、エコハウスへの誘いという書籍と、エコハウス・ポータルとして多くの方々に広く知っていただけるようになり、大変に嬉しく思います。本日のセミナーでは最新の情報も発表されるとのことで、期待しております。


セミナーの目的と、エコハウスポータルについて

井口直巳(エコハウス・フォローアップWG 主査)

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本日は雨の中をお集まりいただき、ありがとうございます。エコハウスの建物が完成してから4年が経過しており、すでにエコハウスへの誘いを読まれている方も多くおられると思いますので、エコハウスの事業の説明は割愛して、このセミナーではエコハウスの設計や検証から得られたものを活かした最新情報をとりあげることにいたします。
エコハウスへの誘いのあとがきに、現時点での知見の到達点を明確にすることに全力を注いだので、そこから将来に向けた新たな課題を見つけていきたい、と書かれていますが、今日がその第一歩となります。それでは、書籍より新しい情報手段として開設したエコハウス・ポータルの制作を担当されたお二人に、ポータルサイトの紹介と解説をお願いします。


島崎葉子(美術映像プロジェクツ 代表取締役)

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エコハウスの事業や建物が完成するまでについては、エコハウスWGが制作した環境省の公式サイトがあるので、そちらをご覧ください。今回私たちが担当したのは、完成後のエコハウスの活動や調査・研究の情報交換を目的としたポータルサイトになります。
トップページでは全国22のエコハウスが一覧でき、その下に最新情報がリストアップされています。選択していくと、エコハウスが建っている周辺の環境まで分かりますが、「?」のある部分にマウスを合わせると用語の説明が出るなど、広く一般の方々にも親しみやすい工夫がされていますので、ぜひ多くの方に紹介をしていただきたいと思います。


小林宏彰(アバンク メディア事業部)

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ポータルサイトはアップデートな作りになっており、全国22のどのエコハウスでも、指定のブログにおいて最新情報が更新されると、ポータルサイトのトップページにある「22のエコハウスの最新情報」リストに表示されます。
またメニューのエコハウス関連情報から、エコハウス関連ドキュメントの一覧表がご覧いただけます。この表は、テーマや掲載年月日などの項目名をクリックすることで、リストの並び順を変えたり、またリストに表示させるドキュメントの絞り込みもできます。例えばエコハウスの長期計測に関する詳細なデータや、環境省に提出された報告書の第4章すべてを見たり、PDFファイルをダウンロードすることも可能です。
またエコハウスに関連するドキュメントの投稿も受けつけており、研究者ばかりでなく設計者の方々にも広く利用していただきたいと思います。


エコハウスのエネルギー評価の解説とこれからの課題について

高瀬幸造(東京理科大学 理工学部建築学科 助教)

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エコハウスへの誘いの161ページとポータルサイト内の関連ドキュメントにエコハウス毎の一次エネルギー消費量のグラフがありますが、これを見ると、温暖地でも暖房の消費量が多いことから、断熱と気密が重要なことが分かります。木質バイオマスによる暖房はCO2排出量の削減には大変効果がありますが、大量の薪を必要とするのでエネルギー消費量としては大きく、どちらで評価するかの判断が重要になります。
福島県の復興住宅の工事中に気密や断熱をチェックしましたが、施工の不注意を直すことで断熱と気密性能が大きく向上することが分かりました。設計者は図面を描くだけではなく、現場の施工の実態も知って、工法や設備システムまで考慮した提案をする必要があります。
東京大学大学院の前研究室のHPには、エコハウスの検証調査も活用したシミュレーションソフトがいくつも公開されています。現在では多くのソフトが利用できるようになりました。設計者の方々は、こうしたツールを大いに活用することをお勧めします。
しかし事前のシミュレーションには万全を求めずに、50〜70%の確度でも十分に役に立つという考えで設計に活用して欲しいと思います。そして研究者に対しては、どのようなツールがあれば良いかを積極的に提案していただきたい。


住宅の省エネ義務化にむけて

澤地孝男(国土交通省国土技術政策研究所 住宅研究部 部長)

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環境省のエコハウス・モデル事業は非常に希な機会を提供したので、これを今後いかに活かすかが非常に重要だと思います。事業におけるエコハウスの定義のなかで、エコライフスタイルについては書籍にも書かれていますが、JIAとしての更に分かりやすい説明が必要な気がいたします。また運用時以外の環境負荷の評価で未解明の部分については、今後も研究者が取り組んでいく必要があると考えています。
設計者の方々にお伝えしたいのは、省エネルギー設計の徹底した合理化が必須となったということです。最新の科学的知見を習得するために、外注や設備設計に任せるのではなく、一次エネルギー消費量のシミュレーションツールなどを活用して、設計にフィードバックできるような仕事の手法を進めるようにしていただきたい。
2050年までに全世界で温室効果ガス排出量を半減させる目標のためには、先進国は80%の削減が必要で、これには建築界全体で取り組んでいくことが求められています。IEAによる2050年への展望では、目標とするCO2の削減対策の内訳が具体的に示されており、その中のエネルギー効率の向上と、電力需要の削減については、設計者の責任が大変に大きい部分です。
設計者の中には、設計はオリジナリティが重要で、ガイドラインやマニュアルに沿って形や仕様を決めることはおかしいといった意見も良く聞かれます。そうした意見に対してJIAは如何なる立場をとっていくのか、私はエコハウス・プロジェクトの経験の中から、その答えを見いだすべきではないかと思います。


エコハウス設計後の設計事例の紹介

櫻井百子(アトリエ momo代表 下川町エコハウス設計者)

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下川エコハウスの完成から4年が経ちますが、建物が廻りの環境に馴染んできたことが実感できます。私自身はエコハウスの経験を自分なりに咀嚼していく時間となりました。北海道内でも下川とは自然環境が異なる倶知安や江差町での、その後の仕事を紹介します。
倶知安の住宅では、北海道の中でも非常に積雪が多い地域なので、雪を楽しく過ごせるような家を考えました。江差町の住宅では海からの風が強いので、風を受け流す設計としました。どちらも断熱と気密を最優先に確保することは同じですが、下川の経験を活かして換気などに新しい工夫をしています。
下川町ではエコハウスの後に、隣りの五味温泉で、ふれあい交流施設というバーベキュー小屋を設計しました。千歳ではセルフビルドで改修して交流スペースとしたり、余市ではエコビレッジに参画するなど、エコハウスの経験からさらに人のつながりを広げていくことに積極的に関わっていくようになってきました。


新井優(新井建築工房+設計同人 NEXT代表 飯田市エコハウス設計者)

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飯田市エコハウスはエアコンなしで設計しましたが、昨年予算がついてエアコンを設置することになりました。小型エアコンの一台を高い位置にするという私の案には多くの異論がありましたが、設置後にはそれで十分なことを皆が納得してくれました。
今日は飯田市エコハウスの翌年に完成した自邸を紹介します。地元の木材を利用するために森林組合からの流通まで遡ってシステムを変えました。年間や一日の温度差が大きく、冬に日射量が落ちない飯田市の気候を活用するため、屋根集熱やダイレクトゲインの蓄熱をしています。完成した年は蓄熱利用が少なく、翌年から年を経る毎にエネルギー消費量が減っていて、使い方の工夫も重要なことが分かります。
私は設計において、蓄熱の時間差による収支と、在宅と不在の時の切替がポイントだと考えています。そのためには最低限を自動運転にして、多くを手動にすることでエコライフスタイルを、住み手が楽しむようにできることが大切だと思います。


座談会 未検証な理論・技術として残されている事項について

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小玉祐一郎(神戸芸術工科大学 教授):日本の気候はバリエーションが豊かなのが特徴で、解決方法は多岐に渡るので、統一した基準をつくるのは大変になります。外皮の性能などは気候区分で基準を決めやすいが、室内外のインターフェイスは色々な考え方がありうるので、その基準は難しく設計者と研究者の共同作業が重要になると考えています。
澤地:すべてに基準が適用できるわけではないが、基準を無視するのもよくないと思います。また、省エネのための定石と言えるようなものは、設計のオリジナリティを損ねるものではないと思います。エコハウスの検証調査からも、自立循環ガイドラインと違う設計者の試みでは失敗している例が多く見うけられました。設計者は、定石を守った上で、まだ定石になっていない部分でチャレンジをして欲しい。
高瀬:エコハウスの検証でも、放射暖房については調査が不十分であり、バイオマス燃料暖房も、使い方で大きく変わるので、そうした部分の知見はまだこれからだと考えられます。

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新井:設計者としては、基準で下限値が示されていない部分が担保されないと決めるのが難しくなります。長野県は森林の利用率が低いので、設計者が活用したいという思いだけではなく、誘導していく制度化も必要だと思います。
櫻井:現在でも賃貸住宅の環境性能はとても低いので、改修などでストックを活用することも重要だと思います。エコライフスタイルには、人が集まって住むことを建築の側からアプローチしていきたい。住み手の使いこなしから設計者が学ぶことも大変に多くあります。

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小玉:基準は必要条件として使い、共通化できるものとできないものを見定めていく必要があると思います。例えば30年前には、通風が重要と分かっていても調べる技術がなく、エアコンがあれば良いとされてしまったが、現在は検証ができるようになりました。いつ窓を開けるのか、生活を楽しむために窓を開けるというような設計が求められています。
高瀬:エコハウスの検証調査では、風向の把握と、通風の入口と出口のバランスの善し悪しがはっきりと調査結果に出ていました。これは住む人が一番良く分かることでもあり、設計者の責任は重要ではないかと思います。設計者から研究者に調べて欲しいことをリクエストしてもらえると、未検証な事項を減らしていけるように思います。
澤地:通風の効果は、熱の排出と、風が体に当たる冷却の二つがあり、エコハウスでも室内が外部に居るのと同じになるくらい窓が開放される設計があり、ヒントになると思います。

質疑応答

細川真宏(現職:環境省大臣官房総務課 政策企画調査官):環境省では6年ほど前からエコハウス事業を企画・予算化し、20の地域選定までは私が担当していました。その後は部署が変ってしまいましたが、大学や研究機関の先生方にご協力をいただいて、大きな成果が得られたことに感謝しています。
エコハウス事業では、省エネだけでなく、エコライフスタイルを掲げましたが、事業の初めには厳密な定義はされていませんでした。住まい方や地域ごとの多様性を重要視して、この事業を通して地域ごとに自治体の宿題にしてほしいと考えました。
行政の立場からの質問として、やはり数値化できるものは制度に反映しやすいので、まだ未検証の部分についての、今後の見通しを教えていただけますでしょうか。また、設計者の方には、多様性やライフスタイルをどのように設計に反映させているかを教えていただけますでしょうか。

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高瀬:木質バイオマス暖房と、太陽熱暖房については、現在進行中の自立循環型住宅への設計ガイドラインで評価の基準が検討されています。
櫻井:北海道の内でも多様性があるので、いつも設計の拠り所は地域の中にあると考えています。
新井:住み手が肌感覚で感じられる家を、表面的な建主の希望を聞くだけでなく時間をかけて探っています。


米谷亮一(石川県環境部温暖化・里山対策室):石川県ではエコハウスを活用した、設計者や施工者へ向けた様々な制度を積極的に広めています。完成してから年月が経つにつれて、残念ながら来場者は減る傾向にあり、今後は、一般の人へ説明のしやすい分かりやすい切り口が必要になってきていると思います。

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小玉:エコハウスは環境性能の必要条件だけでなく、設計者による十分条件が問われているのだと思います。設計者の方々へのメッセージとして、そのような観点で審査しているJIA環境建築賞に注目していただいて、ぜひ応募してください。


挨拶

林昭男(JIA環境行動ラボ 顧問)

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エコハウス・プロジェクトが、今日のセミナーから新たに広がっていくことに期待しています。かつては経験則で設計していたことが、定石が明らかになり、その上に立っての新しい知見が拓けていくことは大変に重要だと思います。エコハウスをどう創るか?について、私は地域に根ざすことだと確信しています。これからは環境性能が確保された、五感によるデザインを、多くの人が参加できるように進めていければ良いのではないでしょうか。

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